山口地方裁判所 昭和36年(レ)36号 判決 1963年4月24日
判 決
徳山市久米二七八番地の三
控訴人
中島堅造
右訴訟代理人弁護士
小野実
同市西松原一丁目徳曹アパート一七号
被控訴人
山本元市
右訴訟代理人弁護士
西原要人
右訴訟代理人弁護士
英一法
右当事者間の昭和三六年(レ)第三六号損害賠償請求控訴事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴人は主文同旨の判決を、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
被控訴人はその請求原因として、
第一、一次的請求
一、控訴人は昭和二九年一月二八日訴外中村静江(現姓佐田。以下単に静江という。)に対し、金二〇〇、〇〇〇円を利息年一割、弁済期同年二月末日の約定で貸付け、同年一月三〇日これが担保として同人所有の別紙目録記載一、の土地につき抵当権の設定を受け同日その登記手続をなしたが、右物件はその後、同目録記載二、の如く分割並びに地目変更がなされ、その(イ)の土地(以下単に(イ)という。)は訴外滝都国雄にその(ロ)の土地(以下単に(ロ)という。)は訴外二家本恵を経て藤井泰雄にその(ハ)の土地(以下単に(ハ)という。)は訴外徳山市に、その(ホ)の土地(以下単に(ホ)という。)は被控訴人にそれぞれ譲渡されその登記を完了した。
二、被控訴人は昭和三〇年一〇月一一日静江の父訴外亡中村清義(以下単に清義という。)に対し、金四〇、〇〇〇円を利息年二割、遅延損害金年四割、弁済期同年一二月二〇日の約定で貸付け、同年一〇月一一日これが担保として静江所有にかかる別紙目録記載二、(ニ)の土地(以下単に(ニ)という)に順位二番の抵当権の設定を受け、同月一七日その登記を完了した。
三、控訴人は被控訴人が右二番抵当権設定登記を受くる以前に(ハ)(ホ)に対する抵当権を放棄していたが、更に被控訴人が右抵当権設定登記を受けた後の昭和三二年八月一日に至り(イ)(ロ)に対する前記抵当権を放棄し、同日その登記を完了した。
四、被控訴人は昭和三二年一〇月二五日前記二番抵当権に基き、山口地方裁判所徳山支部に対する競売の申立をなしてこれを実行したところ、昭和三三年二月一一日訴外細山田多門が、代金一七七、〇〇〇円をもつてこれを競落した。
しかして、右競落代金のうち金五、一七五円に競売手続費用として被控訴人へ、残金一七一、八二五円は控訴人の前記元金二〇〇、〇〇〇円及びこれに対する年一割の割合による最後の二年分の遅延損害金四〇、〇〇〇円計金二四〇、〇〇〇円の債権に対する一部弁済として控訴人へ、それぞれ配当された。
五、ところで、右配当に際しての被控訴人の配当表上の債権額は金七二、〇〇〇円(元金四〇、〇〇〇円及びこれに対する年四割の割合による最後の二年分の遅延損害金三二、〇〇〇円)であり、右配当時における(イ)の時価は金一四八、八八八円、(ロ)の時価は金一一二、六七二円であつた。そこでもし控訴人が(イ)(ロ)に対する抵当権の放棄しなかつたならば(ニ)のみが競落された場合民法三九二条二項により、控訴人はその競落代金全額を受領し得るが同時に被控訴人は(イ)(ロ)に対し先順位たる共同抵当債権の割付額即ち(イ)につき金八一、〇〇〇円(ロ)につき金六二、〇〇〇円((ニ)に対する割付額は金九七、〇〇〇円)の限度において控訴人の抵当権を代位行使することができ、自己の債権の弁済も受け得たのであつて、かかる点にかんがみると、控訴人が前記の如く先順位抵当権を放棄した場合、同人は被控訴人が右の如く民法三九二条二項により(イ)(ロ)に対する抵当権を代位行使することができた限度において(ニ)の競落金から優先弁済を受け得ないものと解される。即ち控訴人はその債権額金二四〇、〇〇〇円から右金八一、〇〇〇円、金六二、〇〇〇円を除いた金九七、〇〇〇円についてのみ競落代金から優先弁済を受け得たのである。それにもかかわらず控訴人は前記の如く金一七一、八二五円の配当金を受領しているのであり、これは法律上の原因なくして被控訴人の損害において金七二、〇〇〇円を利得したことになる。
六、よつて、被控訴人に対し右金七二、〇〇〇円とこれに対する控訴人が悪意になつた日の後である昭和三六年六月一〇日以降右の完済に至るまで民法所定の年五分の割合による法定利息金支払を求める。
第二、右請求が認められないとすれば二次的請求として次の如く主張する。
一、被控訴人は前記第一、二記載のとおり(ニ)に対する二番抵当権を有していた。
二、控訴人は前記第一、一記載の静江に対する抵当権付き債権二〇〇、〇〇〇円につき
1、昭和三〇年一〇月一一日静江より金六〇、〇〇〇円、清義より金四〇、〇〇〇円
2、昭和三二年七月三一日滝都国雄及び新井泰雄より各金三〇、〇〇〇円合計金一六〇、〇〇〇円の弁済を受けている。
三、したがつて、競落人が(ニ)の競落代金を支払つた昭和三三年二月二六日現在、控訴人の前記抵当権の被担保残債権は、元金、利息、損害金を合計しても金一二三、三三三円に過ぎず、控訴人が前記第一、四記載のとおり(ニ)の競落代金の配当として受領した金一七一、八二五円のうち金四八、四九二円については、控訴人は債権なくして配当を受けたことになるのである。すなわち控訴人は法律上の原因なくして右金員を不当に利得し、被控訴人はこれにより同額の損失を受けたわけである。
四、よつて、被控訴人は控訴人に対し右金四八、四九二円と、これに対する控訴人が悪意になつた訴状送達の日の翌日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による法定利息金の支払を求める。
と述べ
控訴人は答弁として
第一、一次的請求につき
一、請求原因事実中、第二項の被控訴人が清義に対し金四〇、〇〇〇円を貸付けた事実は否認するが同項記載の抵当権設定登記がなされていることは認める。第一項、第三項、第四項の事実はすべてこれを認める。被控訴人の(ニ)に対する抵当権の設定登記は被担保債権の存しない無効なものである。
二、同第五項のうち、(イ)(ロ)の時価が被控訴人主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。
第二、二次的請求について、
一、請求原因第一項の事実に対する答弁は一次的請求の請求原因第一、二項に対する答弁と同一である。
二、同第二項の事実中、被控訴人主張の弁済の事実は否認する。
三、同三項の主張は争う。
と述べ(証拠―省略)た。
理由
一、一次的請求原因事実中第一、三、四項の事実及び(ニ)につき第二項記載の抵当権設定登記がなされていることは当事者間に争がない。
(証拠―省略)を総合して考察すると、「被控訴人は昭和三〇年二月二八日所有者静江代理人清義(実質上は清義が所有者であり且つ控訴人に対する静江名義の債務の債務者である。)から(ホ)を代金一一〇、〇〇〇円で買い受け、同年三月七日その所有権移転登記を完了したが、登記手続をなすに際して右土地に控訴人の静江に対する前記債権二〇〇、〇〇〇円のため共同抵当権が設定されていることを知り、清義に対しこれが抹消方を厳しく接渉し、昭和三〇年一〇月一一日売買当事者双方ならびに控訴人三者間に、(1)清義が昭和二八年一二月一五日控訴人から無担保で借受けていた別口金二〇〇、〇〇〇円の債務に対し、内金一〇〇、〇〇〇円の弁済をなすことを条件に控訴人において右抵当権を放棄し、その抹消登記手続をなすこと、(2)清義は資金不如意につき、被控訴人において右買受土地の未払代金六万円の支払をなすと共に、別に清義に対し金四〇、〇〇〇円を利息年二割、遅延損害金四割、弁済期同年一二月二〇日の約定で貸付け、これが担保として(ニ)に二番抵当権を設定すること、(3)清義は右合計金一〇〇、〇〇〇円を同人の控訴人に対する前記一部弁済金としてのみ用いることとし右金員の授受ならびに登記手続は一切訴外司法書士西見毅に委任することの話合が成立した。しかして同日被控訴人は右合計金一〇〇、〇〇〇円を西見毅を介して控訴人に交付し、西見は同月一五日(ニ)に対し、右四〇、〇〇〇円を被担保債権とする被控訴人のため二番抵当権設定登記手続と、被控訴人の買受地(ホ)に対する控訴人の抵当権放棄によるこれが抹消登記手続をなしたこと、」を認めることができる。
甲第二号証の「滌除」の文字は前出証人西見毅の証言によれば訴外西見毅が前記三者の話合の結果の報告に基き司法書士としてなした法的判断を記載したものに過ぎないから、右書証を以て右認定を左右するに足らず、右認定に反する(中略)は措信できない。
以上の次第で被控訴人主張の如く同人の清義に対する金四〇、〇〇〇円の貸付債権は存在し、(ニ)に対する二番抵当権の設定及びその登記は有効である。
二、被控訴人は、前項の如き事実関係の下に(ニ)が競落される場合、控訴人は被控訴人が民法第三九二条二項により(イ)(ロ)に対する控訴人の抵当権を代位行使できる金額の限度において、被控訴人に優先して競落代金より弁済を受け得ない旨主張する。
しかしながら共同抵当権者が抵当権の目的たる一部の不動産上の抵当権を放棄したからといつて抵当権の目的たる残余の不動産について優先弁済を受け得なくなるものとは解し難いから、控訴人が右限度を超えて配当を受けたからといつて、法律上の原因なくして利益を受けたものとなすことはできない。只この場合、共同抵当権者たる控訴人の放棄は、後順位抵当権者たる被控訴人に対抗し得ないものと解されるから、被控訴人は控訴人の放棄にかかわらず(イ)(ロ)につき、前記条項に基き控訴人の抵当権を代位行使しうるものと解すべきである。
以上の次第で、被控訴人の一次的請求は、その余の判断をまつまでもなく理由がない。
三、よつて進んで二次的請求について考えるに被控訴人主張の、控訴人の静江に対する前記債権金二〇〇、〇〇〇円に対し、合計金一六〇、〇〇〇円の弁済がなされたとの事実は当裁判所の措信しない原審証人(省略)の証言中に一部右主張に符合する証言が存在するのみで他に右主張を認めるに足る証拠はない。
してみると、被控訴人主張の二次的請求もまた理由がないといわなければならない。
以上の次第により、被控訴人の本訴請求は何れも理由がないからこれを棄却すべく、これを認容した原判決は不当として取消を免れない。
よつて、民事訴訟法三八六条九六条八九条を適用して主文のとおり判決する。
山口地方裁判所第一部
裁判長裁判官 竹 村 寿
裁判官 井野口 勤
裁判官 中 村 行 雄
目 録<省略>